ネガティブな気持ちを増長するインサイトは、失敗します。
インサイトは、人の考えや行動に影響する強いものだけに、ネガティブなインサイトを突くと、目指していることと全く反対の方向に人を動かしてしまいます。そういう例をいくつか、ご紹介しましょう。
①「ベータ VS VHS」戦争のときのソニー
「ベータマックスはなくなるの?」という問いかけの広告をソニーが仕掛けた。「ベータやばいんじゃないの?」という消費者の気持ちを見事に突いた。そして、「ベータはやっぱりなくなるんだー」という気持ちを強化してしまった。
人々は、この広告を見て、VHSに走り、ソニーのベータは急失速していった。
そう、広告で、いくら「そんなことはありません。ベータのほうがいいんです」と最後に言ったとしても、人はそうは思わない。
既に自分が思っていることに引き寄せて理解する。
結局、この広告は、人々のベータへの不安をかきたてただけだった。
②セガ
「セガは、倒れたままなのか?」新聞広告に突然現れた、戦に負けて倒れた武将たち。
TVCMでは、「セガって、だせえよなー」「プレステのほうがおもしろい」と子供たちに言われてしまい、奮起する湯川専務。
人々の気持ちを逆手に取ったつもりでも、実は、そのまま受け取られてしまう。
そう、セガはやっぱりダメだから買ってはいけない、と。ゲーム機は売れているブランドにゲームソフトが集まるから、売れていないゲーム機を買うのは非常にリスキーだ。
このキャンペーンのあと、セガは家庭用ゲーム機市場から撤退することとなった。
③エア・ドゥ(AIR DO)
東京~札幌間に特化した、格安の航空会社AIR DOのキャンペーンも、世論を味方につけようと「AIR DOをつぶせ!」というキャッチフレーズで、大手航空会社のやりかたを批判している。
まあ、新しいビジネスをつぶそうというやりかたを批判することで、応援を求めるというのはありだと思うが、一部の消費者からは、「つぶれかけの会社の飛行機に乗るのはコワイ」という声が出たのも事実だ。AIR DOは今もあるが、もっとポジティブな本質的なインサイトを突くべきだったと思う。
(参照文献:山本直人著「売れないのは誰のせい?新潮新書)
ほかにも、いろいろあるので、次の機会にご紹介します。